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大晦日のテレビ視聴率激変:紅白、ガキ使、配信サービスが示す新常識

「大晦日といえば、家族みんなでこたつに入って紅白を見る」

かつては当たり前だったそんな日本の原風景が、今、劇的な変化を遂げています。「紅白歌合戦」の視聴率がワースト記録を更新し続ける一方で、かつて民放の絶対王者として君臨した「ガキの使い・笑ってはいけないシリーズ」は姿を消しました。そこへ台頭するYouTubeやNetflixなどの動画配信サービス。

「最近の大晦日のテレビ、昔ほど熱狂できないな…」と感じている方も多いのではないでしょうか。しかし、数字を紐解くと、そこには単なる「テレビ離れ」という言葉では片付けられない、視聴者の興味の細分化と、各テレビ局の必死の生存戦略が見えてきます。

この記事では、過去の視聴率データを徹底的に分析し、紅白・ガキ使・格闘技という3大コンテンツの栄枯盛衰と、これからの大晦日の楽しみ方について深掘りしていきます。

この記事でわかること

目次

大晦日視聴率の最新事情:紅白「独り勝ち」時代の終焉?

日本の大晦日を象徴する番組といえば、やはりNHKの「紅白歌合戦」です。しかし、その絶対的な地位は年々揺らいでいます。かつては80%という驚異的な視聴率を叩き出し、「国民的行事」と呼ばれたこの番組も、近年では30%台前半まで数字を落としています。この現象は単なるマンネリ化なのでしょうか、それとも時代の不可避な変化なのでしょうか。まずは、紅白歌合戦の視聴率推移から、現代のテレビ視聴のリアルを読み解いていきましょう。

視聴率ワースト更新が続く紅白歌合戦の現状

数字は嘘をつきません。紅白歌合戦の世帯視聴率(第2部)は、ここ数年で明確な下落トレンドに入っています。1980年代までは平均して50〜60%台を維持していましたが、2000年代に入ると40%台が定着。そして2020年代、ついにその防衛線さえも突破されてしまいました。

例えば、2021年の第72回放送では第2部が34.3%を記録し、当時の過去最低を更新しました。さらに衝撃を与えたのが2023年の第74回放送です。この年は31.9%まで落ち込み、2部制が導入された1989年以降でワースト記録を塗り替える結果となりました。かつて「40%割れ」がニュースになった時代から、今や「30%割れ」が現実味を帯びるフェーズへと移行しているのです。

この低下の背景には、単純な「番組の質の低下」だけでなく、視聴環境の劇的な変化があります。一家に一台のテレビを家族全員で囲むスタイルから、スマホ片手にSNSを見ながら視聴する「ながら見」や、自分の部屋でYouTubeを見る「個視聴」への変化。視聴率という指標そのものが、現代のライフスタイルとかみ合わなくなっている現状を、紅白の数字は如実に表しているのです。

第2部 視聴率(関東地区)備考
2019年第70回37.3%令和初開催、過去最低を記録(当時)
2020年第71回40.3%コロナ禍による巣ごもり需要で回復
2021年第72回34.3%大幅下落、ワースト更新
2022年第73回35.3%微増するも低水準
2023年第74回31.9%史上最低記録を更新

上記の表を見ると、コロナ禍による「巣ごもり需要」があった2020年だけが特異点として40%台に回復していますが、それ以外は右肩下がりの傾向が鮮明です。この数字は、もはや紅白というブランドだけで視聴者をテレビの前に縛り付けておくことが不可能であることを証明しています。

「若者シフト」は成功しているのか?世帯視聴率と乖離するZ世代の支持

世帯視聴率の苦戦とは裏腹に、NHKは明確にターゲットを「若者」へとシフトさせています。近年の出場歌手ラインナップを見れば一目瞭然です。演歌枠の大幅な削減、K-POPグループの多用、そしてTikTokやYouTubeでバズった「ネット発アーティスト」の積極的な起用。これらは、従来の紅白ファンであった高齢者層を置き去りにしてでも、未来の視聴者であるZ世代を取り込もうとするNHKの強烈な意志表示です。

具体的には、テレビ出演経験がほとんどない覆面歌手や、ボカロP出身のアーティストを主要な時間帯に配置するケースが増えています。これに対し、昔からの紅白ファンからは「知らない歌手ばかりでついていけない」「歌合戦というより音楽フェスのようだ」という批判の声も少なくありません。しかし、10代を対象としたアンケート調査では、約6.5割が「紅白を見る」と回答するなど、若年層の支持率は決して低くないのです。

ここには、「世帯視聴率(テレビをつけっぱなしにしている家の割合)」には表れない、「熱狂的なファン層」の存在があります。若者はテレビの前に座り続けることはしませんが、好きなアーティストが出演する瞬間だけテレビをつけたり、SNSでハッシュタグをつけて盛り上がったりします。NHKはこの「拡散力」と「将来性」に賭けているわけですが、その代償として「お茶の間の定番」としての地位を失いつつあるのが現状と言えるでしょう。

「ガキ使」不在が招いた民放の混乱と視聴率への影響

「ガキ使」不在が招いた民放の混乱と視聴率への影響

紅白歌合戦の裏番組、いわゆる「裏環境」において、長らく最強の座に君臨していたのが日本テレビの「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!絶対に笑ってはいけないシリーズ」です。しかし、2021年以降、この巨大コンテンツが放送休止となったことで、大晦日のテレビ地図は一変しました。ここでは、伝説の番組が残した功績と、その喪失が民放各局に与えた衝撃について解説します。

11年連続トップだった「笑ってはいけない」の偉大な功績と数字

「大晦日は紅白か、ガキ使か」。2010年代の多くの視聴者にとって、選択肢はこの2つでした。2010年から2020年まで、実に11年連続で民放同時間帯視聴率トップを獲得し続けた「笑ってはいけない」シリーズは、まさに化け物番組でした。特に2013年の「地球防衛軍24時」では第1部で19.8%という驚異的な数字を叩き出し、紅白の牙城を脅かす存在として君臨しました。

この番組の強さは、紅白がつまらない時間帯の「避難所」として機能しただけでなく、積極的な「視聴目的」となっていた点にあります。「蝶野正洋のビンタ」や「田中直樹のタイキック」といったお約束の展開は、水戸黄門のような安心感を与え、家族や友人とツッコミを入れながら見るという、年末の新しい様式美を確立しました。視聴率は常に15〜17%前後を安定してキープし、日本テレビの大晦日覇権を盤石なものにしていたのです。

放送年タイトル(テーマ)第1部視聴率特徴
2013年地球防衛軍19.8%シリーズ最高記録
2018年トレジャーハンター14.3%マンネリ化の声も根強く
2019年青春ハイスクール16.2%新しい地図の3人がサプライズ出演
2020年大貧民GoToラスベガス17.6%コロナ禍でも高視聴率維持、これが最後

上記のデータからも分かる通り、晩年でも17%台という高い水準を維持していました。今のテレビ業界において、これだけの数字を稼げるコンテンツがいかに貴重であるか、改めてその偉大さが浮き彫りになります。

「ガキ使ロス」直撃!日テレ後継番組の苦戦と試行錯誤

「笑ってはいけない」の休止決定後、日本テレビは後継となる大型お笑い特番を投入しました。「笑って年越し!」「笑う大晦日」など、コンセプトを変えながら模索を続けていますが、その結果は厳しいものとなっています。視聴率は一桁台前半〜中盤にまで落ち込み、かつての2桁常連という栄光は見る影もありません。

具体的には、人気芸人を多数集めてネタ見せを行ったり、昭和芸人と令和芸人を対決させたりと、企画に工夫を凝らしていますが、「ガキ使」が持っていたような「長時間のストーリー性」や「極限状態のドキュメンタリー性」を生み出せていないのが現状です。視聴者は単なるバラエティ番組の寄せ集めではなく、大晦日という特別な日にふさわしい「祭り」や「イベント感」を求めています。

SNS上では、大晦日になるたびに「ガキ使が見たい」「笑ってはいけないがないと年が越せない」といった「ガキ使ロス」を嘆く声がトレンド入りします。これは、日テレの新番組がつまらないというよりも、あまりにも前任者が偉大すぎたがゆえの悲劇とも言えます。絶対王者を失った日テレは、今まさに「普通のテレビ局」として、大晦日の激しい視聴率競争の波に飲まれているのです。

格闘技(RIZIN)はかつての熱狂を取り戻せるのか

紅白、ガキ使に続く第3の勢力として、大晦日の夜を熱くさせてきたのが「格闘技」です。2000年代初頭、「PRIDE」や「K-1」が巻き起こした格闘技ブームは社会現象となり、2003年の「曙 vs ボブ・サップ」戦では瞬間視聴率43.0%を記録して紅白を上回る快挙を成し遂げました。あれから20年、現在の格闘技コンテンツ「RIZIN」はどのような立ち位置にあるのでしょうか。

PRIDE時代と現在のRIZIN視聴率を徹底比較

結論から言うと、現在の格闘技放送は「一般層を巻き込んだお祭り」から「熱心なファン向けのコンテンツ」へと変貌を遂げました。フジテレビで放送されていたRIZINの大晦日特番の視聴率は、2015年の立ち上げ以降、おおよそ5%〜7%前後で推移していました。これは決して低い数字ではありませんが、かつて民放トップを争ったPRIDE時代の2桁視聴率と比較すると、パワーダウンは否めません。

例えば、那須川天心とフロイド・メイウェザー・ジュニアが対戦した2018年の大晦日には、瞬間最高視聴率で10%を超える場面もありましたが、番組全体の平均視聴率を大きく押し上げるには至りませんでした。これは、格闘技というジャンル自体が、地上波のゴールデンタイムで家族団らんで見るものとしては、少し刺激が強すぎる(あるいはニッチすぎる)ものとして敬遠される傾向が強まったためとも分析できます。

しかし、数字が取れないからといって人気がないわけではありません。会場であるさいたまスーパーアリーナは毎年超満員となり、チケットは即完売。熱量の総量は変わっていませんが、その熱狂が「テレビ視聴率」という指標には反映されにくい構造になっているのです。

地上波放送の減少とPPV(ペイパービュー)への移行トレンド

この流れを決定づけたのが、2022年のフジテレビによるRIZIN大晦日放送の見送り(事実上の撤退)です。これにより、大晦日の格闘技は地上波から姿を消し、ABEMAやU-NEXTなどの動画配信サービスによる「PPV(ペイパービュー:有料視聴)」へと完全移行しました。

これは一見すると衰退のように見えますが、ビジネスモデルとしては進化とも言えます。無料の地上波放送では、CMスポンサーへの配慮から過激な表現や長時間の試合中継が難しく、放送枠に収めるためのカットも頻発していました。しかし、PPVであれば、コアなファンがお金を払ってでも見たい「完全ノーカット」の映像を届けることができます。

実際、PPVの購入件数は数十万件規模に達することもあり、数十億円の興行収入を生み出しています。「なんとなくテレビでやっているから見る」層は離れましたが、「お金を払ってでも見たい」という濃いファン層が可視化されたのが、現在の格闘技大晦日興行のリアルです。テレビの視聴率競争からは降りましたが、ビジネスとしての熱気はむしろ高まっていると言えるでしょう。

ポスト「ガキ使」を狙う他局の戦略と勝者

ガキ使が消え、格闘技が地上波から去った現在、大晦日の民放視聴率争いは「群雄割拠」の様相を呈しています。その中で、意外な番組が着実に支持を広げ、新たな王者として名乗りを上げています。視聴者が求めていたのは、過激な笑いでもストイックな戦いでもなく、意外にも「安心感」と「スリル」でした。

静かなる勝者「ザワつく!大晦日」が支持される理由

ガキ使不在の空白地帯を最も効果的に埋めたのが、テレビ朝日の「ザワつく!大晦日」です。長嶋一茂、石原良純、高嶋ちさ子という「言いたい放題」の3人が繰り広げるトークバラエティは、一見すると地味に映るかもしれません。しかし、2021年以降、民放トップの視聴率(12%前後)を記録するなど、完全に「ポスト・ガキ使」の座を射止めました。

この番組が勝った要因は、明確な「高年齢層へのアプローチ」です。紅白歌合戦が若者向けに舵を切る中で、テレビのメイン視聴者層である50代、60代以上が安心して見られる番組がなくなっていました。「ザワつく」はその受け皿として完璧に機能したのです。毒舌でありながら品を失わず、クイズやグルメといった定番企画で構成される安心感。大晦日の夜に「疲れないテレビ」を求める層にとって、これ以上の選択肢はありませんでした。

番組名主要ターゲット強み・特徴
ザワつく!大晦日50代以上・主婦層安心感、毒舌トーク、紅白からの避難所
逃走中10代・ファミリー層ゲーム性、スリル、子供人気が圧倒的
日テレお笑い特番お笑いファン全般模索中、ガキ使との比較に苦しむ

上記の比較からも分かる通り、テレビ朝日は「あえて若者を狙わない」という戦略をとることで、結果的に最も多くの視聴者を獲得することに成功しました。これはマーケティングの勝利と言えるでしょう。

若者層をロックオン!フジテレビ「逃走中」のニッチ戦略

一方で、明確に若年層、特に小中学生のいるファミリー層を取り込んだのがフジテレビの「逃走中」です。ハンターから逃げ切れば賞金獲得というシンプルなルールは、途中から見ても分かりやすく、家族で応援しながら見るのに最適です。世帯視聴率こそ一桁台ですが、特定の年齢層(コア層)においては非常に高い数値を記録しています。

具体的には、人気YouTuberやTikTokerを逃走者として起用し、番組と連動したスマホ企画を実施するなど、テレビ画面の外側まで巻き込んだ演出が功を奏しています。子供が「これ見たい!」と言えば、親もチャンネルを合わせざるを得ません。そうして「チャンネル権」を握る子供たちを味方につけたことが、フジテレビが大晦日戦線で生き残れた理由です。全方位を狙うのではなく、ターゲットを絞り込む「ニッチ戦略」が、現代のテレビには求められているのです。

これからの大晦日の過ごし方はどう変わる?テレビvs配信

ここまでテレビ番組の視聴率競争を見てきましたが、これからの大晦日を語る上で欠かせないのが「インターネット配信」の存在です。もはやライバルは裏番組ではなく、YouTubeやNetflix、そしてTVerといった配信プラットフォームになっています。2025年以降、私たちの「年越しの瞬間」はどのように変わっていくのでしょうか。

リアルタイム視聴から「見逃し配信」へのシフト

かつて視聴率は「その時間にどれだけの人がテレビを見ていたか」を測る唯一の指標でしたが、今は違います。TVerなどの「見逃し配信」サービスの普及により、「大晦日の番組を正月休みにゆっくり見る」というスタイルが定着しました。例えば、紅白歌合戦ですらNHKプラスで見逃し視聴が可能ですし、バラエティ特番も放送終了直後から配信が始まります。

これにより、視聴者は「ザッピング(チャンネルをパチパチ変えること)」をして必死に面白い場面を探す必要がなくなりました。SNSで「あのシーンが面白い!」と話題になった部分だけを後から確認すれば良いからです。この視聴スタイルの変化は、テレビ局にとっては「リアルタイム視聴率の低下」という痛手になりますが、一方で「コンテンツの寿命が延びる」というメリットもあります。今後は、放送時の数字だけでなく、配信での再生数を含めた「総合的な到達度」で番組が評価される時代になるでしょう。

YouTube・Netflixが大晦日のライバルになる時代

さらに脅威なのが、テレビ番組以外のコンテンツです。多くのYouTuberが大晦日に合わせた特別動画を投稿し、Vtuberがカウントダウン生配信を行います。若者たちにとっては、知らない歌手が出る紅白を見るよりも、毎日見ている推しの配信者とチャット欄で交流しながら年を越す方が、よほど「リアルな繋がり」を感じられるのです。

また、Netflixなどのサブスク動画サービスで、溜まった映画やドラマを一気見するという過ごし方も一般的になりました。「テレビがつまらないから仕方なく見る」という消極的な視聴は消滅し、「数あるエンタメの中からテレビが選ばれる」という厳しい競争環境になっています。だからこそ、ガキ使のような「代替不可能な強力なコンテンツ」の復活が待望されているのです。テレビが再び大晦日の主役になるためには、スマホの画面から目を離させるほどの「圧倒的な熱量」が必要不可欠なのです。

よくある質問(FAQ)

ガキ使の「笑ってはいけない」が復活する可能性はありますか?

現時点では公式な復活発表はありません。BPO(放送倫理・番組向上機構)による「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」への審議入り(2021年)が影響したとされていますが、日テレ側は「休止」という表現を使っており、完全終了とは明言していません。視聴者からの要望も多いため、形を変えて復活する可能性はゼロではないでしょう。

なぜ紅白歌合戦の視聴率はこれほど下がっているのですか?

最大の要因は「視聴者層の分断」です。全世代が知っているヒット曲が減少し、若者向けにK-POPやネット発アーティストを起用すると高齢者が離れ、演歌を増やすと若者が離れるというジレンマに陥っています。また、スマホの普及により「テレビで年越し」という習慣自体が薄れていることも大きく影響しています。

最近の大晦日で視聴率が良い番組はどれですか?

民放ではテレビ朝日の「ザワつく!大晦日」が好調で、ここ数年は民放トップを記録しています。高齢者層を中心とした安定した支持が強みです。また、日本テレビの「ぐるナイおもしろ荘」など、年越し直後の深夜番組が高いシェアを獲得するケースもあります。

RIZINなどの格闘技は大晦日に放送されないのですか?

地上波(フジテレビなど)での放送は2022年以降行われていません。現在はABEMAやU-NEXTなどの「PPV(有料配信)」が主流となっています。地上波の枠にとらわれず、完全決着や過激な演出もそのまま届けられるため、コアな格闘技ファンはこちらの形式を支持する傾向にあります。

まとめ

かつて「紅白」と「ガキ使」が激しく火花を散らし、格闘技が割って入った大晦日のテレビ戦争は、大きな転換期を迎えています。視聴率という単一の物差しでは測れないほど、私たちの年末の楽しみ方は多様化しました。

最後に、この記事の要点をまとめます。

数字がどうあれ、大晦日は一年に一度の特別な日です。テレビを見るもよし、配信を見るもよし。周りの流行や視聴率に流されることなく、自分が一番リラックスして楽しめるコンテンツを見つけて、良いお年をお迎えください。

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