冬のビジネスシーンにおける訪問時、「コートをどこで脱ぐべきか」「脱いだコートをどう持つべきか」と迷った経験はありませんか?普段のビジネスマナーは自信があっても、冬特有の防寒具の扱いは意外と見落としがちなポイントです。
何気ない行動一つで、相手に「マナーを知らない人だ」という印象を与えてしまう可能性もあれば、逆にスマートな振る舞いで「配慮のできる信頼できる人だ」と評価を高めることもできます。特にコートやマフラーなどの扱いは、訪問先のオフィスを汚さないための配慮という意味合いが強く、その理屈を知っておくことが重要です。
この記事では、冬の訪問時に必須となるコートのマナーから、手袋やマフラーの扱い、帰る際のタイミングまで、具体的なシチュエーションを交えて詳細に解説します。明日からの訪問ですぐに使える実践的な知識を身につけましょう。
この記事でわかること
- コートを脱ぐ正しい場所とタイミング
- 美しいコートの畳み方とスマートな持ち方
- 応接室でのコートの置き場所とハンガー利用時のマナー
- マフラーや手袋など冬小物の適切な扱い方
冬の訪問時、コートはどこで脱ぐのが正解?基本のマナー
訪問先に到着した際、最初に直面するのが「どのタイミングでコートを脱ぐか」という問題です。寒さが厳しい日はつい建物の中に入ってから脱ぎたくなりますが、ビジネスマナーには明確なルールが存在します。
ここでは、コートを脱ぐべき正しい場所と、なぜそのように振る舞うべきなのかという理由について、具体的なシーンを想定しながら詳しく解説していきます。
ビジネスマナーの鉄則は「建物の外」で脱ぐこと
ビジネスマナーにおけるコート着脱の鉄則は、「相手の建物の入り口(エントランス)に入る前に脱ぐ」ことです。これは一軒家のオフィスであれ、自社ビルであれ同様です。玄関のドアを開ける前、あるいは自動ドアをくぐる前に、必ずコートを脱いで手に持った状態にしておくのが正解です。
具体的には、訪問先の会社の敷地に入る直前や、玄関前の屋根があるスペースなどが適しています。インターホンを押す時点では、すでにコートを脱ぎ、身だしなみを整えた状態でカメラに映るようにしましょう。コートを着たまま挨拶をするのは、相手に対して「長居するつもりはない」「すぐに帰る」といった誤ったメッセージを与えかねず、また単純に「くつろいでいない=失礼」と捉えられることもあります。
以下の表に、建物のタイプ別の脱ぐタイミングを整理しました。
| 建物のタイプ | 脱ぐタイミング | 注意点 |
|---|---|---|
| 自社ビル・一軒家 | 玄関ドアの外 | インターホンを押す前に脱ぎ終わる |
| オフィスビル(テナント) | 1階エントランスホール | エレベーターに乗る前には脱いでおく |
| 複合商業施設内 | オフィスの受付フロア到着前 | 人の往来の邪魔にならない場所を選ぶ |
このように、建物の形態によって多少の前後はありますが、「相手のパーソナルスペース(オフィス空間)に入る前には身軽な状態になっておく」という原則は変わりません。これを意識するだけで、第一印象は大きく変わります。
なぜ外で脱ぐ必要があるのか?埃と汚れへの配慮
なぜ寒い中、わざわざ外でコートを脱がなければならないのでしょうか。その理由は、単なる形式的なマナーではなく、相手への衛生的な配慮に基づいています。コートの表面には、外気中の埃(ホコリ)、花粉、排気ガスの汚れなどが付着しています。これらを室内に持ち込まないことが、訪問者としての最低限の礼儀とされているのです。
例えば、花粉症の季節に花粉がついたコートをそのまま応接室に持ち込めば、相手が花粉症だった場合に多大な迷惑をかけることになります。また、雨や雪の日に濡れたコートを着たまま入室すれば、床を濡らしたり、水滴を垂らしてしまったりする恐れがあります。
「外の汚れを中で撒き散らさない」という心遣いこそが、このマナーの本質です。そのため、脱ぐ際にはコートをバサバサと振ったりせず、静かに脱ぐ動作も求められます。特に昨今は衛生観念が高まっているため、こうした配慮は以前にも増して重要視されています。
テナントビルや複合施設の場合はエントランスホールでOK
近年多い、高層ビルや大規模なテナントビルに訪問先が入居している場合はどうでしょうか。この場合、ビルの外で脱ぐ必要はありません。1階の共用エントランスホールや、エレベーターホールなど、空調が効いている屋内の共用スペースで脱いでもマナー違反にはなりません。
ただし、訪問先の会社の受付があるフロアに到着した時点では、すでにコートを手に持っている状態が望ましいでしょう。エレベーターの中では他の利用者と密着する可能性があるため、混雑していなければエレベーターに乗る前に脱いでおくのが最もスマートです。もしエレベーター内で同乗者がいる場合は、邪魔にならないように配慮しながら脱ぐか、降りてすぐのホールで手早く脱ぐようにしましょう。
重要なのは、「訪問先の受付担当者の前に立つ時には、コートを脱いでいる」ことです。受付で内線電話をかける際、コートを着たまま受話器を取るのは避けましょう。
脱いだコートの正しい畳み方と持ち方【実践編】

コートを脱いだ後、それをどのように持ち運ぶかも重要なチェックポイントです。無造作に鷲掴みにしたり、引きずるように持っていては、せっかくのスーツ姿も台無しになってしまいます。
ここでは、見た目にも美しく、かつコートや相手のオフィスを汚さないための「中表(なかおもて)」という畳み方と、移動中のスマートな持ち方について解説します。
裏地を表にして畳む「中表(なかおもて)」の手順
コートを畳む際の基本は「裏返し」です。これを「中表(なかおもて)」に畳むと言います。前述の通り、コートの表面には汚れや花粉が付着しているため、それらを内側に閉じ込めることで、自分の衣服や訪問先の椅子などを汚さないようにするためです。
具体的な手順は以下の通りです。
- コートの両肩部分に内側から手を入れる
- 両手を合わせるようにして、くるっと裏返す
- 背中の中心で縦半分に折る(裏地が外側に出る状態)
- さらに上下半分(または三つ折り)にコンパクトに畳む
この手順で畳むことで、万が一コートが壁やデスクに触れても、汚れが付くのを防ぐことができます。また、裏地は滑りやすい素材であることが多いため、腕にかけた際にも衣服との摩擦が少なく、スーツにしわが寄りにくいというメリットもあります。
訪問先までの移動中のスマートな持ち方
畳んだコートは、基本的に「利き手とは逆の腕」にかけて持ちます。これは、利き手(多くの場合は右手)を常に空けておくためです。いつ名刺交換を求められても、あるいはドアノブを回したり、エレベーターのボタンを押したりする際に、スムーズに対応できるようにする準備でもあります。
カバンを持っている場合は、カバンの持ち手を持っている側の腕にコートをかけると良いでしょう。もう片方の手は完全にフリーな状態にしておきます。もし荷物が多くてどうしても両手が塞がってしまう場合は、カバンの上に畳んだコートをバランスよく乗せるなどして、だらしない印象にならないよう工夫が必要です。
移動中の持ち方のOK例とNG例を比較表にまとめました。
| 状況 | OKな持ち方 | NGな持ち方 |
|---|---|---|
| 受付時 | 片腕にかけ、もう片方の手で筆記 | カウンターの上にコートを置く |
| 廊下移動時 | 利き手と逆の腕にかける | 肩に担ぐ・引きずる |
| 名刺交換時 | カバンと一緒に床や台に置く | 脇に挟んだまま交換する |
特に受付カウンターの上に自分の荷物やコートを置くのはマナー違反です。カウンターは相手の作業スペースですので、必ず手に持つか、足元に一時的に置くようにしましょう。
意外と見られている!ボタンやベルトの処理
コートを畳んで持つ際に、意外と目立つのが「だらりと垂れ下がったベルト」や「外れたままのボタン」です。特にトレンチコートのようなベルト付きのコートの場合、ベルトが長く垂れ下がっていると非常にだらしない印象を与え、場合によっては何かに引っ掛けてしまう危険性もあります。
訪問前には、ベルトを後ろで結んでおくか、ポケットに入れておくなどして、すっきりとまとめておきましょう。また、脱いだ後のコートの袖口から中の裏地が飛び出していないか、ボタンが取れかかっていないかなど、細かい部分にも気を配る必要があります。畳んだ状態でも「整えられている」ことが伝われば、仕事に対する丁寧な姿勢も伝わるはずです。
玄関先での振る舞いとコートの置き場所
いざ応接室に通された後、そのコートをどこに置くべきかは多くの人が悩むポイントです。勝手にハンガーを使っていいのか、椅子の背もたれにかけるべきなのか、判断に迷う場面も多いでしょう。
ここでは、応接室に入ってからの具体的なコートの扱い方と、ハンガーの使用を勧められた際の対応について解説します。
受付やインターホンを押す前の最終チェック
先述の通り、コートは受付やインターホンを押す前に脱いで手に持っておきます。この時、改めて鏡があれば身だしなみを最終チェックしましょう。コートを脱いだ際、ジャケットの襟が立っていたり、ネクタイが曲がっていたり、シャツの裾が出てしまっていることはよくあります。
また、冬場は静電気で髪が乱れていることもあります。コートを脱ぐという動作は、意外と全身の衣服を乱す要因になります。「脱いで終わり」ではなく、「脱いで整える」までをワンセットとして捉え、完璧な状態で担当者を呼び出すように心がけましょう。
応接室に通された時、コートはどこに置く?
応接室に通されたら、基本的には**「自分のカバンの上」**に畳んだコートを置きます。カバンは自分が座る椅子の足元(利き手側)に置くのがマナーですので、そのカバンの上に、さらに二つ折りや四つ折りにしたコートを乗せる形になります。
やってはいけないのが、**「椅子の背もたれにかける」**ことや、**「隣の空いている椅子に置く」**ことです。これらは相手の備品を汚す行為とみなされたり、図々しい態度と受け取られる可能性があります。あくまで自分の持ち物は自分のテリトリー内(足元)で完結させるのが基本です。
もしコートがかさばってカバンの上に乗らない、あるいはバランスが悪くて崩れてしまう場合は、カバンの横の床に直接置くのではなく、カバンの持ち手に引っ掛けるようにして安定させるか、カバンに寄りかからせるようにしてコンパクトにまとめます。床に直接置くことに抵抗がある場合でも、カバンの上を第一優先と考えましょう。
「ハンガーにお掛けください」と言われた時の対応
応接室にハンガーラックがあり、相手から「どうぞハンガーをお使いください」と勧められた場合はどうすべきでしょうか。この場合は、素直に厚意に甘えてハンガーを使わせていただきましょう。「いえ、結構です」と断り続けるとかえって相手に気を遣わせてしまいます。
ただし、その際も「ありがとうございます。失礼いたします」と一言添えることを忘れずに。また、自分でハンガーにかけるのが基本ですが、相手がハンガーを持って待機してくれているような状況であれば、お任せしても構いません。その場合は、コートを相手がかけやすいように渡す配慮が必要です。
ハンガー利用時のポイントを以下の表にまとめました。
| 状況 | 対応方法 |
|---|---|
| ハンガーを勧められた時 | お礼を述べて使用する |
| 自分でかける時 | 壁にぶつけないよう丁寧に扱う |
| 相手がかける時 | 襟元を正して相手に渡す |
ハンガーにかける際も、基本的には裏返しのままではなく、表に返してかけるのが一般的ですが、埃が気になる場合は裏返しのままでも許容範囲とされることもあります。しかし、見栄えを考慮すると表に返してかけるのが無難です。
マフラー・手袋・ブーツなど冬の小物マナー
冬の装いはコートだけではありません。マフラー、手袋、耳当て、そして女性の場合はブーツなど、様々な防寒アイテムを身につけます。これらの小物はどのタイミングで外し、どこに収納すべきなのでしょうか。
ここでは、小物類のマナーと、意外と見落としがちなブーツやマスクの扱いについて解説します。
マフラーと手袋を外すタイミングと収納場所
マフラーや手袋、耳当てなどの防寒具も、コートと同様に**「建物の外」**で外すのがルールです。コートを脱ぐ前に、まずはこれらの小物を全て外し、カバンの中にしまいましょう。
重要なのは**「カバンの中にしまう」**という点です。コートのポケットに突っ込んだり、コートと一緒に手に持ったりすると、移動中に落としてしまったり、見た目がごちゃごちゃして美しくありません。訪問中は使わないものですので、カバンの奥に収納し、視界に入らないようにするのがベストです。もしカバンに入りきらない場合は、綺麗に畳んでコートの内側に挟み込むようにして持ちます。
女性必見!冬のビジネスシーンでのブーツの是非
女性の場合、冬場の足元としてブーツを選ぶことがありますが、ビジネスシーンでの訪問においてブーツは避けるべきアイテムとされています。特にロングブーツやムートンブーツはカジュアルすぎるためNGです。
理由は、訪問先で靴を脱ぐ(スリッパに履き替える)シチュエーションがあった場合に脱ぎ履きに時間がかかり、相手を待たせてしまうことや、ブーツ特有の蒸れや臭いが気になる可能性があるためです。また、単純にカジュアルな印象が強いため、フォーマルな場には相応しくありません。
雪国などでどうしてもブーツが必要な場合は、駅のロッカーなどでパンプスに履き替えるか、きれいめのショートブーツ(ブーティ)を選び、パンツスーツで足首を隠すなどの工夫が必要です。基本的にはシンプルなパンプスで訪問するのが最も間違いのない選択です。
カイロやマスクの扱いにも注意が必要
冬場は使い捨てカイロを貼っている方も多いですが、服の上から形が浮き出ていたり、見えたりしないように注意しましょう。また、暑くなって剥がしたくなった場合、訪問先のゴミ箱に捨てるのはマナー違反です。必ず持ち帰りましょう。
マスクに関しては、感染症対策が一般的になった現在では着用したままでも失礼には当たりませんが、挨拶や名刺交換の瞬間だけは外す、あるいは「マスクをしたままで失礼いたします」と一言添えるのが丁寧です。相手がマスクを着用している場合は、こちらも着用したままで問題ありません。
帰る時も気が抜けない!コートを着るタイミング
商談が無事に終わり、ほっとして気が緩みがちなのが「帰り際」です。しかし、最後の印象こそが長く記憶に残るものです。コートを着るタイミングを間違えると、最後の最後で「早く帰りたい人」という印象を与えてしまいかねません。
ここでは、退室から建物を出るまでの正しい振る舞いについて解説します。
基本的には「建物を出てから」着用する
コートを着るタイミングは、脱ぐ時と同様に**「建物の外に出てから」**が基本です。応接室を出て、廊下を通り、エントランスを出て、相手の姿が見えなくなってから初めてコートを羽織ります。
玄関先で見送りを受けている最中にコートを着始めるのは、相手に対して「あなたとの時間は終わりました」と宣言しているようなもので、大変失礼にあたります。寒くても我慢し、ビルの外に出るまでは手に持ったままで移動しましょう。
「寒いのでここで着てください」と勧められた場合
玄関先で相手から「外は寒いですから、どうぞここで着てください」と勧められることがあります。この場合は、頑なに断るよりも、お礼を言ってその場で着る方がスマートです。相手の気遣いを受け入れることもまた、マナーの一つだからです。
その際は、「お言葉に甘えて失礼いたします」と一言添えてから着用しましょう。ただし、着る動作は手早く行い、あまり時間をかけないようにします。マフラーや手袋などの小物は、その場では着けず、完全に外に出てから着用するのが無難です。
エレベーターホールでの振る舞いと見送りのマナー
エレベーターホールまで見送りを受けた場合、エレベーターのドアが閉まるまでがお見送りです。ドアが閉まる瞬間に深々とお辞儀をするのがマナーですが、この時もコートは手に持ったままです。
エレベーターに乗り込み、ドアが閉まった後、同乗者がいなければその場で羽織っても構いませんが、基本的には1階に降りて建物の外に出るまでは我慢するのが美しい振る舞いです。特にテナントビルの場合、1階のエントランスホールでクライアントの関係者とすれ違う可能性もあるため、完全にプライベートな空間(外)に出るまでは気を抜かないようにしましょう。
よくある質問(FAQ)
- 雨や雪でコートが濡れている場合はどうすればいいですか?
-
建物の外で水滴をよく払い、持参したタオルやハンカチで水気を拭き取ってから入室しましょう。濡れたまま持ち込むのは厳禁です。水滴が落ちないよう、特に注意して裏返し(中表)に畳んで持ちます。
- コート掛けがいっぱいでハンガーが足りない場合は?
-
無理にハンガーを使おうとせず、自分のカバンの上に畳んで置くのが基本です。また、他の人のコートの上に重ねてかけるのはマナー違反ですので避けましょう。
- ダウンジャケットやダッフルコートで訪問してもいいですか?
-
業界や関係性にもよりますが、基本的にはトレンチコートやチェスターコート、ステンカラーコートなどのフォーマルなものが推奨されます。ダウンやダッフルはカジュアルな印象が強いため、重要な商談や初対面の訪問では避けた方が無難です。
まとめ
冬の訪問時のマナーは、単に「形式を守ること」が目的ではありません。「外の汚れを持ち込まない」「相手を待たせない」「不快な思いをさせない」という、相手への深い配慮がその根底にあります。
コートを脱ぐ場所、畳み方、置く場所といった一連の動作をスムーズに行うことができれば、あなたのビジネスパーソンとしての品格は確実に上がります。最初はぎこちなくても、意識して繰り返すことで自然と美しい所作が身につくはずです。
この冬は、完璧なコートマナーを身につけて、自信を持って訪問先へ向かいましょう。その細やかな気遣いは、必ず商談の成功や良好な人間関係の構築に繋がります。
